Vol.68 No.4 July 2020
総説
抗菌薬の安定供給に向けて―全国アンケート結果―
中浜医院*
要旨
2019年に顕性化したCefazolin(CEZ),Penicillin系薬を主にした抗菌薬供給の不安定化は,すでに100床以上の病院の42%で周術期予防や感染症治療でCEZを適切に使用できない状況である。また一次医療機関の多くでもSulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC)やTazobactam/Piperacillin(TAZ/PIPC)の欠品状態が続いている。この供給問題はPenicillin原薬の中国依存など複合的要因に起因しているが,現時点では早期の供給回復は未だ不確定である。今後は政府,製薬企業,関連学会の緊密な連携によって,抗菌薬製造の構造的障害の改革が進むことが期待される。
また臨床現場の現状を検証するために,抗菌薬の供給問題に関する全国アンケートを2020年1~2月に実施しその結果を報告した。中でも「現在も抗菌薬の供給不足があって困っている」という回答は,診療所の20%,病院の46%で全体では34%あり,供給が不足している抗菌薬は,CEZ 26%で,次いでSBT/ABPCが23%であった。2020年初頭でも抗菌薬の供給不足は,まだ継続している状況である。
一方,国内での新規抗菌薬の開発は1980~90年代の最盛期に比べて著しく減衰しており,今や抗菌薬の新規開発は長期の公的支援なしには成立しない状況であり,そのうえ,耐性菌が新薬開発を上回る速度で発現する負のスパイラルに陥っている。これらの新規抗菌薬事情も含めて抗菌薬の供給不安定化は「感染症治療の安全保障」にもかかわる問題であり,国内での基礎的抗菌薬の安定供給が早期に実現することが望まれる。
Key word
antibacterial agent, drug shortage, therapeutic drug development, surveillance
別刷請求先
*大阪府大阪市旭区中宮2丁目15-3
受付日
2019年12月9日
受理日
2020年4月15日
日化療会誌 68 (4): 510-517, 2020