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書誌情報

Vol.68 No.4 July 2020

総説

肺炎球菌感染症に対する現行ワクチンの特徴と次世代ワクチンの開発

佐藤 光1), 石井 恵子2), 川上 和義1, 2)

1)東北大学大学院医学系研究科感染制御インテリジェンスネットワーク寄附講座
2)同 感染分子病態解析学分野

要旨

 肺炎球菌は多糖から構成される厚い莢膜を有し,成人の市中肺炎において最も検出頻度の高い起炎菌である。高齢者や基礎疾患を有する患者では重症化することも多く,ワクチン接種による予防が推奨される。肺炎球菌の排除には好中球による貪食・殺菌が中心的な役割を担い,その際に補体や抗体によるオプソニン化が重要となる。一方で,本菌は補体の活性化や活性化補体の菌体への結合を抑制することで好中球の貪食に抵抗性を示す。そのため,現行のワクチンは莢膜多糖体を抗原とし,莢膜に対する抗体を誘導することで貪食・殺菌を促進する。現在わが国では,23価莢膜多糖体ワクチン(PPSV23)と13価コンジュゲートワクチン(PCV13)の2種類のワクチンが使用されている。PPSV23は胸腺非依存性抗原であり,B細胞からの抗体産生にヘルパーT細胞を必要とせず,抗体の親和性成熟やメモリーB細胞の成立が期待できない。一方,胸腺依存性抗原であるPCV13は,13価の莢膜多糖体に無毒性変異ジフテリア毒素を結合しており,ヘルパーT細胞の活性化を誘導することで抗体の親和性成熟やメモリーB細胞の成立が期待できる。現在,これら2つのワクチンが高齢者を対象に接種可能となっているが,両ワクチンの使い分けに関する明確な基準はなく,ワクチンの免疫原性,臨床効果,安全性,費用対効果のデータ集積が進められている。肺炎球菌の莢膜には90を超える血清型があり,現時点でカバーできる血清型は限定的である。そのため,ワクチン血清型の肺炎球菌が減少する一方で非ワクチン血清型が増加するserotype replacementが臨床的に問題となりつつある。現行の肺炎球菌ワクチンは優れたワクチン効果を示す一方で,カバーする血清型が限られることに起因する課題も浮かび上がっており,血清型に左右されないユニバーサルワクチンの開発が望まれている。

Key word

pneumonia, Streptococcus pneumoniae, vaccine, serotype replacement

別刷請求先

宮城県仙台市青葉区星陵町2-1

受付日

2019年11月20日

受理日

2020年4月20日

日化療会誌 68 (4): 518-531, 2020