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書誌情報

Vol.68 No.5 September 2020

総説

単球/マクロファージ制御による致死性急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療

青柳 哲史1, 5), 佐藤 由紀夫1, 2), 川上 和義3, 5), 賀来 満夫1, 4)

1)東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座総合感染症学分野
2)仙台画像検診クリニック
3)東北大学大学院医学系研究科感染分子病態解析学分野
4)東北医科薬科大学感染症学
5)東北大学大学院医学系研究科感染制御インテリジェンスネットワーク寄付講座

要旨

 過去20年を振りかえると,新興・再興呼吸器ウイルス感染症は人類に対する脅威である。高病原性インフルエンザ,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)や中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)による感染症の重症例で,急速進行性の多臓器不全を伴う致死性の急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)を認める。これらウイルス感染症による致死性ARDS症例では共通して,二次性の血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS)/血球貪食リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)を特徴とするサイトカインストームと単球/マクロファージの活性化を認める。しかし,感染症によるHPS/HLHは,疾患の重症度と高い死亡率に関与することが報告されているが,認識はまだまだ低い。そして,感染症によるHPS/HLHの確立した診断クライテリアは存在しないが,本病態を早期に認識することがその後の治療オプションの可能性を拡げると考える。殺細胞性のあるetoposide(ET)と強力な抗炎症効果を有するcorticosteroid(CS)は,これまで一次性および二次性HPS/HLHやマクロファージが活性化されるような病態において使用されている。しかし,二次性HPS/HLHを伴うARDSにおける臨床効果について,基礎的・臨床的に検討が行われていない。著者らは,高サイトカイン血症および血球貪食を伴う重度の肺傷害を呈する致死性ARDS動物モデルの作成に成功した。本モデル動物を用いて,ETとCSの併用療法はサイトカイン産生抑制を介してではなく,単球/マクロファージを直接の標的とし,致死性ARDSのアウトカムを改善させることを確認した。よってETおよびCSを含むHPS/HLHの特異的な治療方法は,二次性HPS/HLHを伴う致死性ARDSの治療選択肢になりうると考える。感染症による致死性ARDSの患者ケアおよびアウトカムを改善するためにも,さらなる臨床研究やARDSのメカニズムの解明と新たな治療標的を見つける基礎的研究が求められる。

Key word

acute respiratory distress syndrome, hemophagocytic syndrome/hemophagocytic lymphohistiocytosis, monocytes/macrophages, targeting therapy

別刷請求先

宮城県仙台市青葉区星陵町2-1

受付日

2020年4月8日

受理日

2020年6月4日

日化療会誌 68 (5): 563-575, 2020