Vol.69 No.6 November 2021
原著・基礎
口腔連鎖球菌(Streptococcus anginosus groupおよびStreptococcus mitis group)の抗菌薬感受性とキノロン系抗菌薬lascufloxacinの耐性菌選択阻止濃度の検討
松和会池上総合病院歯科口腔外科*
要旨
肺炎患者の気管支肺胞洗浄液から口腔連鎖球菌のStreptococcus anginosus group(SAG)およびStreptococcus mitis group(SMG)が検出されているが,薬剤感受性の検討は十分とはいえない。また,これらのlevofloxacin(LVFX)に対する感受性の低下も報告されている。そこで,SAGおよびSMGの薬剤感受性を菌種別に検討し,lascufloxacin(LSFX),LVFXおよびgarenoxacin(GRNX)についてはMutant prevention concentration(MPC)を測定した。
2018~2019年に急性歯性感染症患者より得た6菌種(SAG:S. anginosus,S. constellatus,S. intermedius,SMG:S. mitis,S. oralis,S. sanguinis)各10菌株を対象とし,上記薬剤の他,moxifloxacin,tazobactam/piperacillin,ceftriaxone,meropenemおよびazithromycin(AZM)を薬剤感受性の評価に用いた。
その結果,AZMに対する耐性化率はSAGで20~40%,SMGで40~60%であり,S. sanguinisのMIC90は16 μg/mLと最も高い値を示した。MPC90値は,S. anginosus,S. constellatus,S. intermediusおよびS. sanguinisではLSFXが,S. mitisおよびS. oralisではLSFXとGRNXが最小であった。Mutant selection windowはLVFXで広い傾向にあり,MPC90/MIC90比はLSFXおよびGRNXでは全菌種で2~4であったが,LVFXはS. intermediusとS. sanguinisに対し8を示した。
血漿中濃度の報告値より求めたLSFX,LVFXおよびGRNXのAUC/MICは,SAG 3菌種でそれぞれ433.3,99.3および1,848.3であり,SMG 3菌種では同じく216.7~433.3,49.7~99.3および1,848.3であった。LSFX,LVFXおよびGRNXのCmax/MICは,SAG 3菌種でそれぞれ33.3,12.6および184.3であり,SMG 3菌種では同じく16.6~33.3,6.3~12.6および184.3であった。3剤ともAUC/MICおよびCmax/MICは,既存のターゲット値(AUC/MIC:30,Cmax/MIC:5)を超えていた。しかし,LSFXの肺胞上皮被覆液および肺胞マクロファージ中の薬物濃度推移は血漿中濃度推移と異なり,24時間をとおして全菌種においてMPC90値の10倍以上の濃度であった。
Key word
oral streptococci, antimicrobial susceptibility, lascufloxacin, mutant prevention concentration, mutant selection window
別刷請求先
*東京都大田区池上6-1-19
受付日
2021年8月30日
受理日
2021年9月24日
日化療会誌 69 (6): 417-424, 2021