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書誌情報

Vol.69 No.6 November 2021

原著・臨床

一地方エイズ中核拠点病院において20年間に発症した免疫再構築症候群

古西 満1, 2), 宇野 健司2, 3), 福盛 達也2), 笠原 敬2)

1)奈良県立医科大学健康管理センター
2)同 感染症センター
3)南奈良総合医療センター感染症内科

要旨

 抗HIV治療(antiretroviral therapy:ART)導入後に免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome:IRIS)を発症する症例は今でも認められている。これまでにIRISの発症状況に関する調査報告はあるが,わが国のものは少ない。そこで,本研究では一地方エイズ中核拠点病院において20年間に発症したIRISを調査し,HIV感染症診療におけるIRISの臨床的インパクトを明らかにする。
 1997年1月から2016年12月までに新規,中断後の再開もしくは前治療が効果不良で薬剤を変更してARTを実施し,その治療がウイルス学的に有効であったHIV感染者を対象として,IRISの発症率,発症疾患,発症状況,経過について調査した。
 調査対象となった症例は172名であった。IRISを発症した症例は27名(15.7%)・31エピソード(17.1%)であった。1999年に最初の症例を経験し,2009年から2014年に症例が集中していた。発症した疾患は12疾患あり,帯状疱疹が10例と最も多く,非結核性抗酸菌症,サイトメガロウイルス感染症,Graves病がおのおの3例などであった。80.6%はART開始から3カ月以内にIRISを発症していたが,Graves病は発症まで2年以上経過していた。Paradoxicalな発症形態は10エピソードであり,IRISの発症とART薬の種類には特徴的な傾向は見出せなかった。IRISによる後遺症を認める症例は3例,治療を継続している症例は3例であった。
 われわれの施設ではIRISの発症率は15%ほどであり,HIV感染症診療において比較的遭遇する可能性が高い病態であると考える。IRISとして発症した疾患は多彩であり,後遺症や長期の治療が必要な事例もあるので,ART導入後にはIRISの発症リスクを忘れないように診療することが必要である。

Key word

HIV infection, immune reconstitution inflammatory syndrome, herpes zoster, cytomegalovirus infection, nontuberculous mycobacterial infections

別刷請求先

奈良県橿原市四条町840

受付日

2021年9月2日

受理日

2021年9月17日

日化療会誌 69 (6): 425-432, 2021